タングレス・インサートは菱形断面のSUS304製線材を巻いたバネの仲間です

タングレス・インサートは菱形断面のSUS304製線材をコイル状に巻いた雌ねじ補強材です。
その名称の通り、「タングの無いインサート」と言う意味で、従来のタング付きインサートを進化させたものです。
では、この菱形断面のSUS304製線材をコイル状に巻いたインサートが、そもそもどのような目的で何時作られたのでしょうか?
それは今から60年余り前のアメリカで、航空機のエンジン部の雌ねじ補強材として開発されたのが起源です。
戦闘機の運動性能を上げるにはエンジンの出力を保ったまま、小型軽量化が不可欠になり、アルミを多用し、更に、ねじしろを小さくする必要が出てきたのです。
しかし、アルミは鉄より軟らかい為、そのままではねじの強度(締結力)が得られません。
そこで、開発されたのが菱形断面のSUS304製線材をコイル状に巻いたインサートでした。
では何故、菱形断面のSUS304製線材をコイル状に巻いたインサートが、ネジ補強に有効なのでしょう?
インサートなどを使用しない通常のねじの場合。例えば、10山ある雌ねじに、10山ある雄ねじをねじ込むとします。
この場合、10山分が噛み合うかのように普通は考えるでしょう。
しかし実際は、雌ねじと雄ねじの間にリード誤差(ピッチ誤差)があるため、全く接触
していないねじ山が生じ、特にメネジ入り口から3山~5山に応力(負担)が大きく
掛かり、順に応力が小さくなります。
よく入り口付近で雄ねじが破損する事からも分ります。
では仮に、雌ねじ、雄ねじとも2倍の20山に増やしたとしても、リード誤差の問題が解決しない以上、2倍の強度を得ることはできません。また、ねじの有効長を長くすると言うことは、母材側の全体的な強度を下げることにつながったり、設計上そのような仕様の変更はできない場合が多いと思われます。
そこで、菱形断面のコイルインサートを挿入すると、菱形断面の線材が傾きながら先のリード誤差を吸収し、10山均等に応力が掛かるように働きます。
その為、ネジの強度(締結力)が上がるのです。
このように、コイルインサートを挿入することによって、ねじの強度(締付力)に関する問題は解決しました。
コイルインサートをめねじに挿入するためには、コイルインサート自体を回転させながらねじ込む必要があります。
この時に必要になるのが、タングと呼ばれる部分なのです。
雄ねじを、コイルインサートにねじ込む時には、このタングを折り取る必要があります。
この手間は、意外と厄介なもので雄ねじをセットする工程と、コイルインサートを挿入する工程が別々の場合などに、タングの折り取り忘れのために次工程や、納入先に迷惑をかけたり、折り取ったタングを取り除く工程ロスは馬鹿にならないものがあります。
そこで、考案されたのがタングレス・インサートなのです。
タングの折り取りを行う必要のない、タングレスインサートは、これらの問題を一気に解決し、工程の生産効率を飛躍的にアップさせました。
(タングレスインサートの詳しい説明はこちらをご覧ください)
さらに特筆すべき点は、タング無しで挿入可能であるという事は、取外しも容易に行えるという事です。タング付きインサートの場合は、タングを折り取ってしまうために、その取外しには大変な手間がかかり、さらには母材を破損してしまう可能性を秘めていました。
タングレスインサートは、その取外しも無理なく行う事が可能であるために、母材に負担をかける事を極力少なくして、取外しを可能にすることができたのです。
更に、このタングレスインサートはSUS304製の線材なので磨耗に強く、雄ねじを繰り返し脱着しても、アルミや樹脂などの軟質材料に設けた雌ねじを磨耗から防ぎます。
タング付きインサートをルーツとするタングレスインサートは、現在では航空機産業に欠かせないばかりでなく、医療機器、電気製品他、精密機器には欠かせない製品なのです。